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Q&A
Q1、同和問題は今、どうなっているのですか?
残念なことですが、同和問題は今日なお解決していません。大阪府は2000年に同和問題の現状と課題を明らかにするための調査を行いました。その結果から、現在の部落差別の一端を眺めてみましょう。
図1は、最近10年間に発覚した部落差別事件の件数です。毎日のように、大阪のどこかで差別発言や差別落書きなど、差別事象が引き起こされていることがわかります。しかもこの数字は行政機関が確認した事件の件数です。実際にはこれ以上の事件が発生していることが推測されます。
図1 部落差別事象の発覚件数
図2は、大阪府民の同和地区に対するイメージを5段階評価で得点化したものです。「働きもの なまけもの」の項目を除けば、いずれの項目も中間評価である「3」を割り込んでいます。今回の調査だけでなく過去の調査も含めて、同和地区に対する強いマイナスイメージが府民の中に渦巻いていることがわかります。
図2 同和地区のイメージ(時系列比較)
こうしたイメージは、日常生活の中で差別的な発言や行為となって姿をあらわします。表1は、「同和地区の人はこわい」という話を聞いたことがあるかどうか、そして聞いたことがある場合は、それは誰から聞いたのかをたずねた質問の結果です。なんと府民の過半数の人が、こんな会話に接しているのです。しかもそれは、「友人」「近所」「家族」「職場」など、およそ日常生活のあらゆる場で繰り広げられていることがわかります。部落差別の現実は、府民の生活の中にこんな形でも姿をあらわしています。
表1 「同和地区の人はこわい」という情報の入手と経路(経路は複数回答)
部落差別は、同和地区の人々の生活実態にも反映されています。図3は、同和地区の人々と大阪府民の学歴構成を比較したものです。「不就学」や「初等教育修了(小・中学校)」の割合が高く、「中等教育(高校)」や「高等教育(短大・大学)」の割合が低いという、大きな学歴格差がいまだ解消していない現実が示されています。
図3 学歴構成比較
差別は被差別の立場にある人々の心理に深刻な影響を与えています。表2は、被差別体験のある人に、そのときの気持ちを尋ねたものですが、「怒り」「いやな気分」「悔しい」「悲しい」「憂うつ」など、同和地区の人々が深く心を傷つけられている姿が浮かび上がってきます。
表2 被差別体験と感情(「被差別体験あり」と回答した2085名から/複数回答)
「世間の一部の人々は、同和問題は過去のものであって、今日の民主化、近代化が進んだわが国においてはもはや問題は存在しないと考えている。けれども、この問題の存在は、主観をこえた客観的事実に基づくものである。」残念なことですが、「同対審」答申(1965年)で述べられたこの言葉は今日もなお生き続けています。
Q2、雇用が「同和問題の解決」になぜ重要なのですか?
2000年の調査によれば、同和地区の失業率は男性が9.7%、女性が8.2%となっています(表3)。翌年7月、全国の失業率が5%を突破したとして新聞各紙はそれを大きく報道しましたが、同和地区ではその1年前に約2倍に達する深刻な事態が進行していました。とりわけ若年層と、子どもの教育費など最も生活費の負担が大きい40歳代での厳しさが目立ちます。不況の影響がいち早く、そして一段と厳しく同和地区を襲っています。
表3 失業率
図4は、同和地区の雇用労働者における「常雇」および「月給」制の人の割合を、1972年・1990年・2000年の調査から取り出したものです。「常雇」「月給」を安定就労の指標として考えた場合、1970年代から1980年代にかけて、同和地区の就労実態が大きく改善されていったことがわかります。しかし2000年の調査結果は、バブル経済崩壊後の構造不況のもとで、再び雇用の不安定化が同和地区において急速に進行していることを明らかにしました。
図4 「常雇」「月給」の割合の変化
仕事の問題は家庭の収入の問題に反映されます。それは、現在の高い教育費のもとでは子どもの教育の問題に直結します。同時に、健康の問題や家庭生活の安定など、生活全体の問題にも関わってきます。こうした厳しい状況は、次の世代にもマイナスの影響を与え、「差別の悪循環」がつくりあげられていくのです。
1965年に出された「同対審」答申が差別の実態について、「就職の機会均等が完全に保障されていないことが特に重大である」と指摘したのはそのためであり、仕事保障の問題を「同和問題解決の中心的課題」と位置付けた理由もここにあります。C-STEPはまさに、こうした最重要課題の解決を担う組織として期待されています。
Q3、C-STEPは登録の対象を拡大したのはなぜですか?
同和地区住民は決して固定的ではありません。引越しをして出て行く人もいれば、新たに転入してくる人もいます。そこで、亡くなったり生まれたりという自然増減を無視して2000年の調査と1990年の調査とを比較すると、現在の同和地区住民の9.4%はこの10年間における来住者であることが明らかとなりました。逆に、現在の地区人口の26.1%にあたる人々が地区外へ転出していったこともわかりました。同和地区住民は激しく入れ替わっているのです。
ここで注目したいのは、ではどのような人々が来住し、また転出していっているのかという点です。図5・図6はそれぞれ雇用形態と賃金形態から、原住者と来住者の状況を比較したものですが、それによると、原住者に比べてより不安定な雇用形態にある人が新たに来住してきていることがわかります。その一方で、より学歴の高い階層など、安定就労層が地区外に転出して行っていることも示されました。
図5 原住・来住別雇用形態(30歳以上)
図6 原住・来住別賃金形態(30歳以上)
つまり同和地区は、「安定層」を排出し「不安定層」を吸引するという、まるで「巨大なポンプの役割」を果たしている姿が浮かび上がってきたのです。先の問で取り上げた「差別の悪循環」の問題とともに、こうした地区住民の流出入の状況が、不安定就労問題をはじめとするさまざまな困難を同和地区に引き寄せているのです。
2001年9月に出された大阪府「同対審」答申が、「同和地区に現れる課題は、現代社会が抱えるさまざまな課題と共通しており、それらが同和地区に集中的に現れているとみることができる」と指摘しているのは、まさにこうした実態を踏まえたものです。
だとすれば、同和地区の安定就労問題は同和地区住民だけを見つめていても解決しません。社会が抱える失業・不安定就労問題の実態を見すえ、こうした「さまざまな阻害要因を抱える就労困難者」の課題に正面から向き合ってこそ、同和地区の就労問題も根本的に解決されていく展望が開かれてくるのではないでしょうか。それはまた、同和問題の解決を通じて人権確立社会の実現に資するという、C-STEP設立の理念を一層開花させることでもあるのです。
Q4、「常用雇用に限られた雇用の促進」という目標から「多様な就労形態」へ拡大されたのは何故ですか?
2000年の調査では、「仕事をしたいと思っている人」(求職者)に対して、その理由や希望する仕事の形態を尋ねています。それによると、「収入を得たいから」が54.5%と予想通り最も大きな割合を占めていますが、「生活の自立を果たしたいから」の9.7%をはじめ、「生きがいがほしいから」「健康を維持したいから」「社会に出たいから」など、「働く」ということへの深くて広い期待が示されました。
とりわけ障害者や高齢者など、「さまざまな阻害要因を抱える就労困難者」におけるこうした割合は、例えば障害者における「生きがいがほしいから」の割合が20.3%と平均値の2.5倍近くになっているなど、大きな比率を占めています。
図7は、これら人々に希望する仕事の形態を質問した結果です。これを見ると、「正規の職員・従業員」の31.5%よりも、「パート・アルバイト」が46.8%と上回るなど、実に多様な「働き方」の希望が明らかになりました。
図7 働きたい仕事の形態
社会全体の雇用形態も今急速に変化しています。「常用雇用」という安定就労の確保は引き続きC-STEPに課せられた重要な課題ですが、こうした希望の多様性を踏まえて、その守備範囲を大胆に拡大していくことが現実的に求められているのではないでしょうか。「多様な雇用形態」への対応は、それに応えていこうとの姿勢を具体化したものです。
Q5、なぜきぎょうが「就職困難者」の雇用問題に取り組まなければならないのですか?
失業問題や差別の問題などさまざまな社会問題の解決は、国をはじめとする行政の責務であることは言うまでもありません。しかしそのことは、企業をはじめ市民がその問題に無関心でよいことを意味しているものではありません。1965年に出された国の「同対審」答申が、同和問題の解決を「国の責務であり、同時に国民的課題である」と述べているのはそのためです。とりわけ雇用の問題は、労働市場のほとんどを占めている民間企業の協力なしに、当事者の努力や行政の取り組みだけで解決することは不可能です。企業に寄せられている期待は実に大きいといわねばなりません。
しかし、多くの企業はともすれば利潤追求にのみ関心を集中させ、雇用や経営に人権の視点を欠落させる中で、結果として差別を許してきたという苦い経験を有していることも事実です。アメリカに進出した日本企業が、日本での「常識」をそのまま持ち込んだ結果、それは重大な差別であると指摘されて莫大な損害賠償を請求されることが相次いでいる事実にもこうした実情が反映されています。
現在それぞれの事業所には、公正採用選考人権啓発推進員の選任が義務づけられ、就職差別の撤廃や企業内人権研修の実施が求められていますが、そこにはこれまでの取り組みへの反省が込められています。環境問題とともに、人権問題への積極的な取り組みは、今日、企業の社会的責務となっているのです。
ところで、昨今の雇用情勢の悪化は決して平等に市民を襲っているのではありません。同和地区住民や障害者、母子家庭の母親や中高年齢者など、従来から厳しい状況に置かれてきた人々に一層著しくのしかかっています。「人権」や「企業の社会貢献・社会的責務」という視点が弱いとき、不況のしわ寄せが最も強くこれらの人々に現れてくるのは当然の結果といえます。「さまざまな阻害要因を抱える就労困難者」とは、こうして社会的に作り出されていることに注意を払いたいと思います。そしてこのような時だからこそ、企業の姿勢が問われているではないでしょうか。
企業がその責務を正しく受けとめ、雇用という分野において寄せられている大きな期待に応えていくことが要請されています。そのための社会的な仕組み、それがC-STEPという組織です。ここでは、行政の持てるパワーを十二分に発揮して登録者の「人材開発」に取り組むとともに、その努力を会員企業の「雇用開発」の努力と結び付けていく地道な取り組みが展開されています。「就職差別をしない」という消極的な段階に留まらず、人権が確立された地域社会の建設をめざして、「就労困難者への雇用の場の提供」という企業の積極的な対応が強く求められています。
Q6、地域就労支援事業とはどのような事業ですか?
「地域就労支援事業」とは、働く意欲・希望がありながら、雇用・就労を妨げるさまざまな阻害要因を抱える就職困難者等を対象に、身近な行政である市町村が、あらゆる雇用・就労施策や福祉施策などを活用し、地域の関係機関などと連携しながら、雇用・就労を支援する事業であり、平成14年度府内19の市町において開始され、平成16年度からは、府下全市町村で事業に着手されました。
Q7、C-STEPの支援対象者とは?(定款第3条より)
C-STEPの支援対象者は、定款第3条「センターは、同和問題をはじめとする人権問題の解決に資するため、就職に際して困難な課題を抱える府民を支援し、もってすべての人の人権が尊重される豊かな社会の実現を図ることを目的とする。」と定められており、具体的には、大阪府に設置されている「大阪府就労支援ケース連絡協議会」の推薦者となります。